成果報告
本校は、平成31年に文部科学省より、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定され、5年間科学技術人材の育成に取り組んできました。最終年となる今年、5年間の成果を以下のようにまとめました。
1 SSH申請時の課題
平成30年度、本校は下記の課題を抱えておりました。これらの課題をSSHを通じて解決につなげていこうと考え、SSHに申請しました。
【課題1】学習活動でも中高の生徒どうしが協働的に学習する場を保障し、相乗的に成長していくための体制を整える。 【課題2】より多くの生徒が科学に触れる機会を増やしていくために、学校が主体となって教育課程などの体制を整える。 【課題3】理数課題研究の内容が高度なものに発展しにくい。 【課題4】少子高齢化・過疎化が進行する中、地域を支える人材をどのように育成するか。 |
2 本校SSHの概要
平成31年に文部科学省より、SSHに指定され、5年間科学技術人材の育成に取り組んできました。研究開発課題名、目標、仮説は以下の通りです。
研究開発課題名「異年齢間の協働を基盤にした過疎地域の中高一貫校における段階的な探究活動と科学技術人材の育成」
[目標1]科学的素養を育むための6年間の段階的な課題研究を中心とした異年齢間の協働による探究プログラムを研究開発する。 [目標2]豊かな人間性と創造性を育むための地域理解・国際理解プログラムを研究開発する。 [目標3]生涯にわたり主体的に科学技術に関わる意欲を育むための小中高大の連携の在り方を研究開発する。 |
本校では、科学的素養を次のように定義しました。(a)自然や科学技術に対する興味・関心、(b)科学的知識に基づいて課題を発見する力、(c)情報収集力・データ分析力や観察・実験の技能、(d)科学的根拠に基づいて課題を解決する力、(e)コミュニケーション能力(プレゼンテーション能力・ディスカッション能力)
[仮説1]6年間の中高一貫教育プログラムを生かして課題研究を体系的に実施することにより、生徒の発達段階に応じて科学的素養を育成できる。 [仮説2]地域の課題を素材とした学習プログラムや外国人留学生との交流などにより、地域理解や国際理解が深まり、広い視野と豊かな人間性が養われ、地域並びに世界の未来を創造する人材を育成できる。 [仮説3]近隣小中高等学校に本校のSSH事業の取り組みを普及する活動や、大学・研究機関などと連携して最先端の研究に触れることにより、児童・生徒の知的好奇心が高まり、生涯にわたり主体的に科学技術に係る意欲が育まれる。 |
(参考)以下のサイトにも、概要が掲載されています。
関高SSHの概要 – 岩手県立一関第一高等学校・附属中学校 SSH (ic1-h-ssh.sakura.ne.jp)
3 本校SSHの成果
プログラム1 中高一貫教育の特色を生かした発達段階に応じた課題研究の実施
本校では、下表に示すように全ての学年で課題研究(探究活動)を行っています(表1)。
表1 各学年の課題研究の特徴と科学的素養の関係
学年(授業名) | 特徴 | (a)興味・関心 | (b)課題発見力 | (c)情報収集力・他 | (d)課題解決力 | (e)コミュニケーション能力 |
中学 (高志探究Jr) | 高1との協働活動(合同課題研究) | ○ | ○ | ○ | ||
高1 (高志探究Ⅰ) | フィールドワークⅠ 中3との協働活動(合同課題研究) | ○ | ○ | ○ | ||
高2普通科 (高志探究ⅡA) | フィールドワークⅡ | ○ | ○ | ○ | ||
高2理数科 (高志探究ⅡB) | 研究計画ヒアリング(大学教員からの助言) | ○ | ○ | ○ | ||
高3普通科 (高志探究ⅢA) | ブラッシュアップ | ○ | ○ | ○ | ||
高3理数科 (高志探究ⅢB) | ブラッシュアップ 英語発表会 | ○ | ○ | ○ |
仮説1を検証するため、科学的素養が1年間でどれくらい向上したと自覚しているか(1年間の資質・能力の上昇率)について、「高まった」・「とても高まった」と肯定的な回答をした令和2年度入学生の生徒の割合を調べました。その結果、理数科、普通科理系ともに5項目全てにおいて、学年が上がるにつれてその割合が概ね高くなっていました(図1)。高校3年間で課題研究を繰り返すことにより、科学的素養が確実に高まったと生徒は自覚していました。教員のアンケート結果も同様の結果が得られていることから(表2)、課題研究を繰り返すことで確実に科学的素養を育成できることが分かりました。
図1 令和2年度入学生の科学的素養の3年間の推移
表2 教員アンケート結果(生徒の資質・能力)
また、本校では異年齢間の協働活動として、中学校3年生と高校1年生の合同課題研究を行っています。令和4年度の合同課題研究後、高校1年生に「同学年の生徒と協力して取り組もうとする姿勢」等についてアンケートを実施し、「1全く高まっていない」、「2あまり高まっていない」、「3高まった」、「4とても高まった」から選択してもらい、それぞれの平均値を求めました(表3)。その結果、異学年の生徒と協力して取り組もうとする姿勢に有意な差があることが分かりました。中学3年生の感想から、中学3年生には探究の手法が身についていることも分かりました。これらから、科学的素養とともに豊かな人間性も育成できることが分かりました。
表3 令和4年度の合同課題研究に取り組んだ高校1年生のアンケート結果
同学年の生徒と協力して取り組もうとする姿勢 | 異学年の生徒と協力して取り組もうとする姿勢 | リーダーシップ | |
中3と協働した班の生徒 | 3.33 | 3.05※ | 2.74 |
同学年のみの班の生徒 | 3.34 | 2.86※ | 2.68 |
表4 合同課題研究に取り組んだ中学3年生の感想例
高校生はそれぞれの考えがうまくまとまっていて、研究の進め方を考えたり問題があったときのとっさの転換ができたりで、すごいと思った。 |
高校生と一緒に考えることで、高校生の物ごとを多角的に見る力やわかりやすい発表の仕方を学ぶことができました。 |
来年度、自分が高校生になったときにどのようにすべきかを考える良い機会となった。 |
中高合同で活動する時間をもっと増やしてほしい。 |
課題研究では、研究テーマを設定する際などに先行研究調査を実施していますが、インターネット等で得られる論文は、大学の紀要や学会誌の論文など、研究者が作成しているものが多く、同年代の生徒が作成したものは少ないのが現状です。そこで、高校生がどのような研究を行っているのか、本校や他校の課題研究の論文データベースを作成し、活用しています(図2)。現在、約9000本の論文タイトルが掲載されていて、キーワード等で検索できるようになっています。
図2 作成した課題研究データベース
令和5年度より、探究活動を充実させるために課題研究を1単位増単し、講演会や実習を行う特別授業を設けています(表5)。
表5 課題研究の単位数の変化
高志探究Ⅰ (高1) | 高志探究ⅡA (高2普通科) | 高志探究ⅡB (高2理数科) | 高志探究ⅢA (高3普通科) | 高志探究ⅢB (高3理数科) | |
令和元年度 | 1 | 1 | 2 | 0.25 | 0.25 |
令和5年度 | 2(1) | 2(1) | 3(1) | 0.50 | 0.75 |
課題研究の内容や発表会等の活動報告は、以下のサイトに掲載しています。
関高SSHの内容・活動報告 – 岩手県立一関第一高等学校・附属中学校 SSH (ic1-h-ssh.sakura.ne.jp)
プログラム2 地域理解と国際理解を高めるための取組
本校では、下表に示すように地域理解・国際理解に関する取り組みを行っています(表6)。
表6 地域理解・国際理解に関する取組
内容 | 対象 | |
地域理解 | 関高フィールドワークⅠ | 高1 |
関高フィールドワークⅡ | 高2普通科 | |
地域連携講座 | 中学校・高校の希望者 | |
研究を通した国際交流 (国際理解) | 英語発表会 | 高3理数科 |
英語講演会 | 高2 |
取組やフィールドワークⅠなどの活動報告は、以下のサイトに記載しています。
関高SSHの内容・活動報告 – 岩手県立一関第一高等学校・附属中学校 SSH (ic1-h-ssh.sakura.ne.jp)
フィールドワークや地域連携講座の取組を通して、一関市など地域の20団体と連携関係を構築し、地域理解の取り組みが充実しました。
連携先については、以下のサイトに掲載しています。
連携先 – 岩手県立一関第一高等学校・附属中学校 SSH (ic1-h-ssh.sakura.ne.jp)
また、地域に関する取り組みで、振り返りを活用した評価手法を開発しました(表7)。令和4年度の評価結果から、7割の生徒が新たな地域の課題を発見し、2割の生徒が見出した課題の解決方法を具体的に考えている(創造している)ことが分かりました(表8)。
表7 高志探究Ⅰの地域に関する取組に関する評価基準
表8 地域に関する取組の評価(令和4年度)
評価項目 | A評価 | B評価 | C評価 |
地域の課題発見 | 74% | 26% | 0% |
課題の解決方法(創造力) | 22% | 78% | 0% |
主体性 | 29% | 69% | 1% |
国際理解については、高3理数科の英語発表会で外国籍の大学教員と研究交流を行っています。高2の英語講演会では、外国籍の研究者から研究内容や、なぜ日本で研究を行っているのか、研究者になった経緯、出身国と日本の文化の違いなどについて講演していただいています。中国・雲南省の中学・高校との交流が進行しており、継続的な研究交流に向けた環境が整いつつあります(図3)。
図3 国際理解に関する取組
プログラム3 小中高大の連携に関する研究開発
本校では、下表に示すように小中高大の連携に関する取り組みを行っています(表9)。
表9 小中高大の連携に関する取組
取組 | 内容 |
科学探究部の活性化 | 研究 |
コンテストの参加 | |
小・中との交流 | |
最先端理数研修 | |
高大連携事業 | 講演会 |
高大接続研修(アカデミックインターンシップ) | |
高大連携講座 |
小中高大の連携に関する活動報告は、以下のサイトに記載しています。
関高SSHの内容・活動報告 – 岩手県立一関第一高等学校・附属中学校 SSH (ic1-h-ssh.sakura.ne.jp)
大学や研究所など8大学4機関と連携し、講演会・高大接続研修・高大連携講座を実施しました。取り組みを通して、8割を超える生徒の知的好奇心や興味・関心が高まっていることが分かりました(表10)。
表10 講演会、高大接続研修、高大連携講座の生徒アンケート結果(令和4年度)
連携先については、以下のサイトに掲載しています。
連携先 – 岩手県立一関第一高等学校・附属中学校 SSH (ic1-h-ssh.sakura.ne.jp)
高大接続研修(アカデミック・インターンシップ)の参加者は、ほぼ全てが理系分野に進学していて、キャリア教育として大きな意義があることも分かりました(表11)。
表11 高大接続研修の参加者と卒業後の進路
高大連携講座に参加する生徒は、増加傾向にあり、主体的に行動する生徒が増えていることも分かりました(表12)。
表12 高大連携講座・地域連携講座の参加者数の推移
附属中学校では、令和5年度に高大連携講座・地域連携講座をキャリア教育の一環と位置づけ、総合的な学習の時間の取り組みの一つである「未来探究講座」として受講するようになりました。生徒アンケート結果からは、附属中学生が高校1年生より主体的に参加しており、科学技術に係る好奇心や興味・関心も高いことが分かりました(表13)。
表13 高大連携講座・地域連携講座(未来探究講座)の生徒アンケート結果(令和5年度7月)
岩手大学や東北大学と連携し、研究計画や研究に対する助言をいただくことで、理数科では高度な理数課題研究が行われるようになり、毎年外部コンテスト等で受賞しています(表14)。
表14 外部コンテストでの成績(理数科)
活動実績については、以下のサイトに掲載しています。
活動実績 – 岩手県立一関第一高等学校・附属中学校 SSH (ic1-h-ssh.sakura.ne.jp)
4 指導体制と教員の変容
本校では、全教員で課題研究を指導する体制を構築しています。その際、担当教員間で、作成した課題研究指導マニュアルや講義用スライドを活用し、常に情報共有しながら指導を行っています(図4)。
図4 課題研究指導マニュアル
課題研究指導マニュアルは、以下のサイトに掲載しています。
開発した教材等 – 岩手県立一関第一高等学校・附属中学校 SSH (ic1-h-ssh.sakura.ne.jp)
教員アンケートの結果から、本校教員が、SSHの取組を通じて学校が活性化し、中高の教員間の協力関係の構築が進んでいると認識しており、新しい教材や指導法を開発や探究学習の指導力向上につながっていることも分かりました(表15)。
表15 教員アンケート結果(学校経営)
5 申請時の課題に対する成果
5年間のSSH事業を通して、申請前の課題に対して、以下の成果が得られました。
課題 | 成果 |
学習活動でも中高の生徒どうしが協働的に学習する場を保障し、相乗的に成長していくための体制を整える。 | 合同課題研究、校内発表会の交流、合同授業などを実施して、中高の生徒どうしが協働的に活動する機会を設けた。 |
より多くの生徒が科学に触れる機会を増やしていくために、学校が主体となって教育課程などの体制を整える。 | 講演会、高大接続研修、高大連携講座などを実施して機会を増やすとともに、増単することで充実を図っている。 |
理数課題研究の内容が高度なものに発展しにくい。 | 大学教員の助言を受ける機会を増やし、ブラッシュアップすることで、高度な研究が行われるようになった。 |
少子高齢化・過疎化が進行する中、地域を支える人材をどのように育成するか。 | 地域理解に関するプログラムを導入し、新たな課題発見につなげた。 |
6 今後の課題
これまでの取り組みを通して、新たな課題が生じています。令和6年度以降は、これらの課題を解決するよう取組を充実させることにしています。
【新たな課題1】キャリア教育とSSH事業を連動させた新プログラムの必要性 【新たな課題2】「問う力」と仮説設定に必要な「論理的思考力」を養成する必要性 【新たな課題3】主体性をより高める必要性 |